出遭いと出逢い

こちらは北極海到達チャレンジの3つ目です。

Part1とPart2からお読みくださいませ。

Part1から続けて読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。今回もどうぞよろしくお願いします。

焦り

コンディションにもよるのだろうが、フェアバンクスから北極海の町、Deadhorseまでは基本的に8日間〜10日間で完走する人が多いという。

体力に自信がないわけではないのだが、大事をとって10日間で走ることにした。

よってフェアバンクスにて北極海油田のツアー予約を10日に取った。

*北極海を見るには油田に入る必要があり、ツアー予約を事前に行う必要があります。

勿論10日間より時間をかけてもいいのだが、食料を多くしすぎてもなぁ。

と思ったので10日で走る計画を立てたのだった。

さて、前回の内容になるが、8月16日のコンディションは最悪だった。自転車に乗ることができた区間は本当に少し。ほとんどの時間、自転車を押すことに使った。

そしてその自転車を押すのが本当に大変だったのだ。

車輪が回転するのを邪魔する重い質の泥に苦しんだ。

初めての経験。

泥でブレーキのかかってしまう自転車のなんて不便なこと。

自転車と荷物を分けてそれぞれ担いで進むか?

無理やりにでも押して進み、途中途中泥を取り除くか?

僕は後者を選んだ。

どちらを選んでもかなり体力を使ったのは間違いないが、荷物をまず運び、その後自転車を運ぶという二重の手間を嫌った。

かわりに都度、車輪が回転するようにと、つまる泥を取り除く作業を要した。

結果として8月16日に進んだ距離は30kmくらいしかなかった。

10日(正確には9日と10時間以内)にDeadhorseに到着する必要があった僕にとって、1日に30kmしか進めなかったプレッシャーはすごかった。

もしまた後日同じようなコンディションを迎えたら、その時は一体どれだけ進めるだろうか?

そんなプレッシャーだ。

別にお金を追加で払い北極海を見る予約を取り直せばいいのだが、ツアーの定員次第ではいつまで北極に滞在すればいいかわからなかったので、時間に間に合わせたかった。その辺の間に合わなかった時のことを考えなかったのは僕のミスである。

それにより絶対間に合わせなければ!

っていうプレッシャーを背負うことになる。

ビハインド50km。

早く取り戻そう…

起伏がやはりすごい。(8月17日)
先は長そうだ…(8月17日)
北極圏近くに愛犬の散歩に来たエレンさん。
野生のブルーベリー採集の間、愛犬はツンドラの野原で自由に遊んでいる。
僕にブルーベリーを分けてくれると同時にツンドラの発音は「タンドラ」だと教えてくれた。
アラスカのブルーベリーは小粒でした。
未舗装路の補修のため?
あるいは新しくアスファルトを敷くため?
とにかくこの工事区間の新しい泥は
最悪レベルにタイヤが重くなる。
ギリギリ乗って攻略できた。
かなりの体力を消耗する。
(8月17日)

vsグリズリー

撮影地は異なるが、たとえ遭遇しても毎回撮影できるわけではないのでお許しを。これは150mは離れていると思う。

8月17日。僕は前日の16日の遅れを取り戻そうと必死だった。朝早くに起き、日照時間の長さを生かしどんどん走る。

時刻は21時くらい。

日本では夜だが、こちらはやっと夕方の始まり。

直線のゆるい登り坂の先に何かいる。

少しだけ日が落ちてきたから影も暗く何かわかりにくい。

距離が近づく。

なんだろう?まだわからない。

小さな動物。

もう少し近づく。

熊だ…

しかも小熊。

道路の脇を見ると、その子熊の母?がいた。

そしてもう一頭子供がいる。

2頭の小熊と母親?だよね?とにかく親がいた。

淡々と書いているが本当に恐怖を感じた。

これはやばいやつだ。

最初に道路に見つけた影。

少し先に道路を横断しようとしたのか?あるいは遅れて道路を横断していたのか?

とにかくその小熊をもっと早く熊だと気づかなければならなかった。

そして親に気付くのも遅かった。

道路の脇はすぐ森で、そこにいたせいで大きな図体に気づかなかった。

あまりにも強烈な恐怖だったので少々記憶を盛っているかもしれない。

しかし確実に10m以内には近づいてしまっていたであろう。

熊からしたら僕から近づいている。

でも僕からしたら熊が突然森から出てきたって感じだ。

いや実際そうかも。

熊やムースなど動物は朝または夕方に現れやすいと聞くが、出会ったのはまさに夕方であった。

かなり恐怖を感じているのだが…

人間痛すぎると逆にもはや痛みを感じないように、恐怖もそうなのだろうか?

案外冷静?だった。

とりあえず熊が襲ってきたときに自転車に跨っていては避けられないのでまず自転車を降りる。

そして刺激しないようにそっと自転車を置く。

そして、現地の人に教えてもらったように両手を広げて人間アピール。

意外と冷静でしょ?

因みに意外と冷静だからってカメラを構える余裕なんてあるはずもない。

熊はというと…まさかの立った。仁王立ちは威嚇だ。

母熊でいいんだよな?

メスのくせにとんでもなくでかいな。

両手広げて人間アピールしてる場合じゃない。

これはスプレーを使うしかないようだ。

風向きに注意する。

頭は冷静だが体は震える。

スプレーを構える手がブレる。

撃ったことがないので噴射範囲もわからない。

引きつけないといけないのは知っている。

落ち着け!落ち着け!

銃と違って所詮はスプレーだ!

スプレーくらい撥水スプレーとかそんなんで使ったことあるだろ!

中身が撥水成分か化学兵器かの違いだ。

落ち着け!落ち着け!できる!撃てる!

自分に言い聞かせながら熊を相手にサークリング。

風上まで正確に位置を調整する。

感覚の話なので正確ではないと思うけど、1度もブレることなく風上から撃ちたかった。

右手で引き金を。左手はスプレー下部を抑える。

左手は噴射の勢いでスプレーの噴射の方向を狂わせないためだ。

過去に事例は当然あるが、基本は熊は無闇に人を襲わないときいている。

しかしコイツはどうだ?

どうして仁王立ちしてるんだ?

話が違う。

そんなことを考えていた気もするし、何も考えてなかったかもしれない。

恐怖と焦りとその場をどう攻略するかに頭をフル回転させていたその時の記憶はあまりにインパクトが強く、同時にあまりに強烈ゆえに逆に細かいところが曖昧。そんな感覚分かりますか?

あの時の思考回路は今となってはわからないが、ものすごい長い時間、グリズリーと対峙していた気がする。

しかし実際はごく短い時間なのだろう。知らんけど。

熊の話に随分長文だ。しかしそのくらい濃密な時の流れ。しかし後から振り返ると一瞬のこと?

熊は一体何が気に食わないのか?

(↑明らかにお前が近付いたからだろ!)

とにかく襲われた。

突進してきた。そうだと思う。もうその辺の記憶は曖昧だ。

右と左、どちらの足からダッシュしてきたか?

そんなの覚えてない。

突進と同時に。

いや少し反応が遅れて

とにかく突進を見てからすぐにスプレーを撃った。

引きつけないと!!!って?

やってみ?

怖いから。すぐ撃っちゃうから。

とはいえ効果はあったようだ。

怯んだ?かはわからないが、少なくとも苦しんでる。

どうやら相当きついらしい。

小熊は母親の心配をしているように見えた?

見えただけ。多分そうだった。

小熊のことなんかどうだってよかった。

僕は自分が逃げることのみ考えていた。

僕が進んできた道は登り坂だ。

熊は前足の方がやや短く登りに適した体だと聞いたことがある。

セオリーなら下り坂に逃げるべきだ。前足が短い分、下りは遅れる。

とはいえ、この道をもう一度来るのもかなり精神的にきつい。

ので僕は北上、つまり登ることを選んだ。

幸い自転車に乗れる程度の坂だ。

とにかく逃げる。必死だ。

あまりその時見た景色は覚えていない。

ただただペダルを回すことに必死だった。

熊はどうなったのかな?

スプレーの苦しみから解放されるのはいつだろうか?

僕がわざわざこんなところに来なければ、あの熊は苦しまなくてよかったんだ。

そんなことも考えたりした。

どれくらいの時間走ったかはわからないが、かなり逃げた。

やっと心が落ち着いたときには冷や汗でびっしょりだった。

嫌な汗だ。急に寒さを強く感じる。

まぁそもそも気温的にも寒いんだけどね。

やがて北極圏に突入。

北極圏に入ったとわかるボーダーラインが大地に描かれているのを期待したがそんなものはないらしい。

まぁ、北極圏突入おめでとう!

胸にあるのは空のベアスプレー。
北極圏越えて初めて見る夕焼け。もう間も無く陽は落ちる。
そろそろテントを張らなくては…
でも熊の恐怖が拭えない。

あれ?食べ物は?

北極圏を超えた後、僕はその日の強烈な熊の恐怖を忘れようと努めた。

だからあえて日記には書かなかった。

なかったことにしないと精神的に崩壊しそうだった。白夜に近いから夜は短いはず。

それでも怖かった。もし寝ている無防備な時に襲われたら?

もう考えたくない。熊のことはダルトンハイウェイ走るまで忘れるぞ。そんな感じだった。

自己暗示のおかげか?

いや疲れただけだろう。ぐっすり眠り翌朝を迎える。

そこで気付いた。あれ?食べ物は?

勿論テントの中に食料は保管しないのだが、テントから離しておいたはずの食べ物を入れたドライバッグがない。

はぁ!?!?!?

えぇ!?!?!?!?

食べ物の一部を失った。

動物が持っていく?とか。

まさか人間はとらないだろう。

いや、動物を疑うのも違うかもしれないが、とにかく紛失。

まぁ、でも一回あたりの量を削るだけだ。

支障は…あるけどない…!

ポジティブに!

とはいえ、これも小さなプレッシャーに。

ここでアルファ米を食べた。
本来2つ食べるのだが、1つで我慢。
(8月18日)
ツンドラの湿地と針葉樹林と山
すごく好きな景色。
(8月18日)

無償の優しさ

あれ!?!?!?

贅沢してるじゃん!!!!

そんな声が聞こえる。

そうなんです。しかもこれ…奢ってもらったんです。

本当に感謝です。

助けてくれたのはデイブ(Dev)さん。

カナダのホワイトホース近くのユーコン川のほとりに住む方だ。

彼もまた自転車乗りで、彼の夢の一つは日本を自転車旅すること。

すごい奇遇な出会いだった。

彼は自分のホームタウンよりずっとドライブで北極海を目指しているらしい。

彼と出会ったのはコールドフットという村。

村といってもレストランとガスステーションとビジターセンターしかない。空路で行くことも可能。

彼に話しかけたのは僕。

Hello!

彼もまた元気に挨拶してくれた。

第一印象が良かったので少し質問してみることにした。

I think there is no shop I can get some food. I wanna buy food to eat tomorrow and the day after tomorrow…

I know Coldfoot has a restaurant.

But I don’t need to eat in the restaurant.

テキトーにきいてみた。

向こうの反応はというと。

え?ここはレストランしかないよ?

だった。

ですよねー…

やっぱないよね。そりゃそうだよな。

Thank you! Sorry for asking you a mysterious question.

ありがとう!意味不明なこときいてごめんね!

そう伝えると、彼の方から質問された。

どうして食べ物に困ってるんだい?

「いや困ってるわけじゃないんだけど、もし買えたら助かると思って。」

って言いたいけど英語が出てこない。

まぁ事実あれば助かるわけだし、そういう意味では少し困ってる。

事情を伝えた。

“Actually I lost a part of my food.

I lost a bag.

Maybe while I’m sleeping.”

実は食べ物の一部をなくして。一つのバッグをなくしたんだ。多分寝てる時に。

ガバガバイングリッシュだけど伝わったようだ。

彼はとても親切だった。

自分も自転車に乗ること。自転車で食べ物ないのは辛いよね。とか共感してくれたり、いろんなことを話してくれた。3割くらいしか聞き取れないのは申し訳ない。そのことを謝ると

少しでも聞き取ってくれるならそれでいい。僕は日本語何も知らないから。ありがとうしか知らない。それに比べたら君はすごいよ。

そう言ってくれた。

彼の優しさはここからだった。

僕に何があったか話させてくれただけでなく、僕に夕飯をご馳走してくれた。

お店はバイキング形式だった。

値段は48ドル程。さすがに申し訳ない。一部でも払おうか…と思いつつ甘えてしまった。

本当においしかった。ありがとう。

肉に野菜。これまで全く食べて来なかったものをたくさん食べることができた。感謝してもしきれない。

Devとレストランの人が何か話している。ネイティブ同士なので早口で何言ってるかほとんどわからない。

ある程度するとレストランの人が僕のために後日分の僕が失ったよりも遥かに多い食料をくれた。

言葉を失った。

なんてお礼を返せばいいかわからない。

日本語ならこんなにもたくさん出てくるのに…

Thank you so much.

しか言えない自分が情けない。

涙が出そうになる。でも泣くともっと優しくされてしまいそうだったので、堪えた。

こんなことなら僕もDevにいくらかでも払うべきだった。

Devはこんな交渉までしてくれていたのか…

本当になんて優しいんだ…そしてそれに応えてくれるレストランの人もだ。

必ず何か違う形でお返しをしよう。

そう思った。翌朝にDevに手紙を書くことにした。

Thank youを連発していると

翌朝またレストランに来なさい。

そう伝えられた。

Devは翌朝6時にはコールドフットを出発らしく夜に一旦さようなら。

彼は北極海を見たあと、またダルトンハイウェイを南下してくるので再び会うことになる。

さて僕はコールドフットのレストランに翌朝もう一度訪れる。

すると今度はレストランの従業員のChelseaが僕のために朝食を用意してくれていることを知った。

「あぁ…いいのだろうか…」

勿論嬉しい。すごく嬉しい。

でもたとえ一部の食料失ったところで、我慢できる食事量だった。

向こうからのご好意ではあるが、こんなにも甘えていいのかな?

そんな気持ちになっていた。

とはいえ、翌朝の従業員の笑顔はとても素晴らしく

なんとかかんとかは好きか?

なんて聞いてきて、出来立てを提供してくれた。

なんとかかんとか。ってのは僕が聞き取れないからそう表現している。だからテーブルに運ばれるまで何を作っているのかはわからなかった笑

バイキングなんだから、その辺のを食べるのに、わざわざ出来立てを作ってくれたのだ。

頭が下がる。

本当に本当に本当に。僕はこのコールドフットという村が大好きだ。

いつかまたダルトンハイウェイに行った時は、何でもいいからお返しをしたいと思う。

僕の人生初の海外での冒険。その思い出のダルトンハイウェイ。そこで出会った素晴らしき村にお礼をしたい。なかなか簡単にできることではないのだが、したいと思う。

モーニングはフルーツをたくさん頂いた。
これが僕のために用意された食料
そして翌朝のモーニングを提供するようにという
従業員同士の伝達のメモ

路上の再会

コールドフットより北に100kmを超えたあたりで再会。コールドフットを出発した2日後の8月20日のことである。

彼は僕が安心して走れる状態になっていることをとても喜んでくれた。

そして彼はこう切り出した。

Promise me!

約束して!

表情から真剣に伝えてくれていることがわかったので、こちらからも一言。

英語が苦手で。でもベストを尽くして聞くよ。だからゆっくりお願い。

勿論。

という返事の次に彼はこのようなことを言ってくれた。

わかりやすい英語で言ってくれたけど一部聞き取れないかった。申し訳ない。

内容は以下。

「目の前で誰かが少しでも困っていて、それを自分が助けられるなら助けなさい。

私は私の考えの元に君を手伝いました。

だから君もまた、困っている人がいたら助けなさい。

約束してね。

ところで新鮮な食べ物また食べたいだろ?

ほら持ってきたよ!プルドーベイホテルでもらってきたご飯だよ!

食べ物は僕が助けられる。

この先の人生、きっと君にしか目の前のその人を助けられない。そんな時が来るかもしれない。

その時は君がその人のヒーローになりなさい。

あとこれプルドーベイホテルからもらってきたハンバーガー!どーぞ!」

彼がゆっくり簡単に話してくれたので8割くらい聞き取れましたが、一部わからなかった。あと意訳というかこういうことでしょ?みたいな感じで聞き取ってました。

そしてこれがまた彼が新たにくれた食べ物である。

一瞬?とは言わないけど5分足らずで食べてしまった。

自転車乗ってるとすぐ食べちゃうね。

Dev本当にありがとう。

彼は最後、僕を抱きしめこう言った。

“See you again. You’re my friend.”

彼はジープによる砂埃とハグの温もりを残して走り去ってしまった。

つたない英語の手紙と折り紙、喜んでくれるかな?

僕はまたここでも泣いてしまった。

また会おう、Dev。今度は僕から君のために何かさせてくれ。ありがとうございました!

つづきへ

実は…ここまで話してきた内容はもっと簡単にまとめる予定でした。

でも推敲して短くまとめようと努力したけど、無理でした。

だって今回の内容も読んでもらいたかったから。

でも、これで話すことはあと吹雪と最後の100kmの寂しさとか、そんなことだけになりました。

次回が最終章です。

また読んでくださいね。

次回、最終章。遂に北極海へ!

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