限界を超えろ!!!

こちらは全6章でお届けする北極海到達チャレンジの第5章です。

初回から順番に紹介します。

第1章 アンカレッジ→フェアバンクス
第2章 ユーコン川周辺での泥の戦い
第3章 野生動物と新しい友との出会い
第4章 別世界への入り口ブルックス

ブルックス名物、濃霧!吹雪!

わかりにくいけど雪の向かい風!
しかも強烈、しんどーい!

さて、いつの間にか辺り一面真っ白だ。

視界はほとんどないし、自分がどこにいるかわからない。

でもアティガン峠へ向かい登っていることはわかる。

先が全く見えないけど恐らくずっと登り坂なのだろう。

久しぶりにトレーラーとすれ違う。

そのトラッカーに忠告される。

どうやら天気がこれからかなり荒れるらしい。

スノーストームとかブリザードとかそんな単語を使っていたので、天候が酷くなるのは容易に想像できた。

ブルックスを越えるなら吹雪が収まってからにしなさい、とのことだった。

ありがたい忠告だが、時間の関係上突っ込むしかない。無謀なことはしない。

無理だと判断すれば停滞すればいい。

今は一歩でも先に進みたい。

とはいえ

吹雪は8月を忘れるほどの強さであった。

上の写真の撮影も本当に苦労したのだ。

レンズにはすぐに雪がはりつくし、突風がふけば三脚は倒れそうかと思うくらい。

なんとか撮影に成功した僕の渾身の1枚なんです。

あの時撮っておいてよかった。

その後、写真なんて撮る余裕ないくらいにさらに風と雪は強まったから。

気温は氷点下数度なのかな?

わからないが、少なくとも風速的に体感温度は確実に氷点下だ。

前方から風と一緒に雹のようなものが叩きつけてくる。

痛い。

うずくまりやりすごす。

そんな時、一台の車が僕の隣に停まった。

「大変だろう?のるか?」

人生において雪はほぼ経験のない僕にとってはすごくありがたい誘い。

いやありがたいどころじゃない、神レベル。

しかしプライドがあった。

もう今の自分は心は折れていない。

肉体的にも精神的にも、このブルックス山脈と十分戦える。

ここで二つ返事でほいほいと車に乗ってしまったら後ですごく後悔するのではないか?

絶対に後悔する!

僕は当時、コールドフットでのDevの優しさに甘えたことに少し敗北感を味わっていた。

僕のことを「友」と表現してくれるDevと楽しいひと時を過ごせたからいいのだけど…

食料の一部を失ったとはいえ、自分の食料だけでもダルトンハイウェイ走破はなんとかできたと思う。

勿論トラブルが起こればかなり厳しくはなるが、決してやれないことではなかった。

そこにDevとの繋がりが生まれたとしても、本来僕は何もない北極圏への道を単独で挑戦しに来たのだから。

だからブルックスくらい自力で越えないとカッコつかないと思った。

きっぱり

“No thanks! I wanna go on myself.”

と返事した。

おじさんからは心配されたが、彼は一言。

“Cool!  Be safe!”

さすがは車、吹雪にも負けずあっという間に視界から消えた。

あと少しなのに!!!

吹雪の中を進みながら3時間ほど。

風が強いためになかなか前進しない。

しかしダルトンハイウェイ最高地点アティガン峠に到達した。

あまりにも風が強いため写真を撮る余裕はなかった。

そもそもあの環境で撮影しようものなら、シャッターを切る前にレンズに雪が張り付いて写真はただの真っ白なピンぼけしたものとなるだろう。

“あっここがアティガン峠ね。OK!OK!よし!くだろ!”

くらいの達成感を微塵も感じさせないままブルックス山脈北側へと下っていく。

自転車に乗って下りたいところだが、風が相当強いのでそれはできない。

途中風が収まり一時期的に自転車に乗った。

風の弱くなった短い時間に事件は起こる。

前輪のディスクブレーキのローターに何かよくわからんものが絡まってしまった。

風で飛来したのかな?

わかんないけど気づいたら前輪がロックしてしまった。

解かなければならない。

作業しやすいようにグローブを外す。

手が悴むまでの短期決戦である。

結果は僕の負け。

不器用ゆえに解けなかった。

手はもう感覚がない。思うように動かせない。

なんということだ…

吹雪はいつおさまるかわからない。

手を少しでも温め直しリトライ。

やはりダメだった。

一度冷えた手はなかなか温まらない。

さてどうしようか…どうしようもできない。

直せないなら仕方ない。

回転しない前輪は持ち上げて進もう。それで頑張ってみる。

しかし雪を乗せた風が吹き付ける中、そしてグチャグチャのダートでそんな体力は長くは持たない。

体力も気力ももたなかった。

今日あと70kmは進みたかったのに…

実は僕はまだ前半苦戦した泥の戦いによるビハインド50kmを挽回しきれていなかったのだ。

加えて8月20日のブルックス山脈での苦戦である。

いつやむかわからない吹雪、動かない手にイライラする。

たかだか絡まったものを解くだけなのに…

大したことないはずのことがこの環境ではとても大変に思える。

悔しい。

あと300kmくらい。

このまま吹雪がしばらく止まないのなら北極海油田のツアーの期日に間に合わせるのは絶望的になる。

なんとしても間に合わせたい。

焦りが募る。

少しでも前進するために気力と体力を振り絞り、前半を持ち上げて進む。

全く進んでくれない。

自転車とは車輪が回転しないとなんて不便なんだ…

ちくしょー!!!!

叫んだ。そして泣いた。

あと少しなのに!!!!

早く吹雪やんでくれ!!!

滑稽であった。

恥ずかしいくらいに無力であった。

自分は結局何もできないんだ。

北極という言葉に何か踊らされていた。

わかっていたつもりだった。

アラスカや北極がすごいのであって、そこにいく僕そのものはすごくない。

そうわかっていたつもりだった。

でもやはり僕はどこかでそこにいく自分の能力も高くなっていると思っていたのかもしれない。

悔しかった。

大声で叫んだことを今でも覚えている。

“何が冒険家だ!俺は結局何にもなれないじゃないか!

バドミントンもダメ!卓球もダメ!

ほかも全部ダメ!

結局昔から何もできねーじゃねーか!

なんて泣き叫んだのを覚えている。

泥に四つん這いになって泣いた。

本当に無力だった。中学の時、そこそこの成績を残せていた卓球。しかし高校でバドミントンをしたためにブランクがあき大学で卓球を再開したときにレベルについていけなかった。そしてバドミントンの方も自分で納得できる成績は残せていなかった。

僕は部活は本当にがんばるタイプだったのだが、結局集大成のようなものは何もなかった。

自分を表せると思った冒険の世界。

やっと見つけた世界。

その世界への挑戦。

それはもう期待に満ちていた。

しかしアラスカに来てから自分の弱さを知り、友を失い、夢から逃げた。

でもまたがんばれた。

しかし結局ここでだめ。

あぁ惨めだな。

“俺は何もできないんだ…”

辺り一面真っ白。

どこにいるかもわからないところに1人でいた。

顔にかかる雪は温かい涙により溶け、水となる。

涙なのか雪なのか?

顔は濡れて汚い。

心が折れると体も一気に弱るらしい。

気温こそ0度を少し下回るくらいで大したことないが、吹雪の中だ。

体感温度はもっと低いし、絶望している当時の体はその程度の寒さでもどんどん熱を奪われていった。

でもまだ生きているし動ける。

解こうとリトライするもどうにもならない。

再び泣いた。

本当に弱虫だ。

でも泣いててまた疑問に思う。

あれ?泣くって体力使うことじゃない?

泣ける体力があるならまだ何かがんばれるのでは?

とはいえ自転車修理は無理だ。

今の自分が1番力をいれるべきこと。

ずばり体力の回復。

こんな暴風の中でテントを張ったことはないが、ノウハウだけは知っている。

それを最短速度でやるだけだ。

体力はあまり残っていない。

短期決戦だ。

テントが風に飛ばされないよう通常とは違う手順で設営する。

テントが無限の彼方に吹き飛ばされようものなら生命線を失ったも同然だ。

暴風の中での初めての設営にして、いきなり北極での実践。

かなり緊張したが、無事できた。泥と溶けた雪でぐちょぐちょのビショビショの汚い体でテント内へ。

最低限に体をきれいにしてから寝袋に入る。

吹雪はいつやむだろうか?

この停滞の時間がその後を左右する。

しかし考えるのはやめよう。

今は停滞することしかできないのだから…

疲れ切った体はあっという間に深い眠りに落ちた…

こんなに疲れたのは初めてだった。

つづきへ

北極海へは残り3日で辿り着かねばならない。

しかし吹雪の中、自転車トラブルを解決することはできず、前半の走行距離の遅れを取り戻すどころかさらに遅れを蓄積する結果となってしまった。

時間への焦りが終りのわからない吹雪への不安を増長する。

吹雪はいつやむのだろうか?

次回へ続く。

また読んでくださいね。

次回、ブルックス以北の世界。

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